電流は電気の移動のことである。この電気の正体は電子（厳密には、電子の中の自由電子であるが、ここでは電子と略する）である。
電子が押し出されてマイナス極からプラス極へ移動していくには何らかの力が必要である。この力は電気の圧力であり、電圧と呼ばれる。電圧がかかると電子は電線の中を押し出されていき、それが電流となる。
厳密に言えば、電気の移動には電子・イオン・ホールという3つのキャリアが担っている。電気はこれらキャリアを媒体として伝わっていくので、キャリアの運ぶ電気のことを電荷と呼ばれる。電子は負の電荷、イオンは正と負の両電荷、ホールは正の電荷を運ぶ。これらキャリアの中で一番重要なのが、電子の存在である。原子の周りには電子が起動を描いて高速で回っている。この電子軌道はひとつではなく、原子によって複数ある。その最も外側の軌道を最外殻【さいがいかく】と呼ぶ。最も外側にあるので原子核の引く力が一番弱く、簡単に自由電子になる。固体中では、この最外殻の電子が電圧によって、自由電子になり押し出されていく。
ところが、電子がはまだ発見されない19世紀初めに電流はプラスイオンの移動する方向に流れるとされたために、電流の流れは電子の移動方向と反対向きになってしまったのである。
電気は電子の動きによって捉えることができることは言及した。つまり、電気を流すものと流さないもの（絶縁体・導体）の違いも、電子で説明が付く。
自然というのは帳尻を合わせるように振舞う。その振る舞いの結果が、電流を流れるなどといった結果になるわけである。
ところで、抵抗を繋ぐ前の状態で、プラス極側に引き寄せられた電子が電池内に移動しないのはなぜだろうか？ それは、電池のマイナス極から電子が出ていないからである。電池のマイナス極から電子が出て行かないのは、導線内の電子と陽子の数のバランスが取れているからだ。このように平衡状態を保つという自然現象が他の場面でも多く見られる。
イメージするにはこう考えたらどうだろうか。底の広いA、底の狭いBという水槽があったとする。このAとBの下の方で細い管で繋がっている。Aにある一定の水を入れる（もちろん、管より上に水面下がくるように入れなければならないが）。すると、AとBの水面が同じ高さになるまで、水が流れ続ける。この現象の本質は大気圧であるが、AとBの水面高さが平衡状態になっているといえる。
これを電池に置き換えて考えてみる。電池も起電力がなくなるまで電気は流れ続ける。本当はこれが電流の本質なわけではない。本質を理解するには今の物理学の説では量子力学の知識が必要である。一般的には、プラス極とマイナス極間の電位差によって電流が流れると考えるだけで問題ないことが多い。
キャリアとしての電子は、自由電子という方が正確である。絶縁体はかなりの高温ないし高電圧を加えないと自由電子は発生しないが、金属などの導体では常温でも自由電子が豊富に存在する。
電池の例を挙げると次のようになる。
1：プラス極に接続された導線内の電子はプラス極近くに引き寄せられる。
2：マイナス極に接続された導線内の電子はマイナス極の反発力になって導線の端へ移動する。
3：では、導線に抵抗を繋げてみる。抵抗内の電子は、導線のプラス極からの吸引力とマイナス極からの反発力を共に受け、プラス極側の導線内に移動していく。
4：すると同時に抵抗内の電子が不足するので、マイナス極側の導線から電子の補給を受ける。
導線を伝わる電気は、電子の移動によって説明される。また、導線を伝わる電気の速度はほぼc（≒3×108[m/s]）と同じである。それでは、電子がcの速度で導線を進んでいるのだろうか。実際には違うのである。電子はたくさんの電子の中をぶつかりながら進んでいくので、電子が進むのはかなり遅い速度になる。
例：直径2mmの銅線に10Aの電流を流すと電子は約0.3[mm/s]の速度で銅線中を進む。 ◇
